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「優雅なる日本の茶道は簡素を讃える」

ケン・ロス記

 時が止まった。
 というか、少なくとも優しくゆったりと流れていた。ホリヨーク市ウィステリアハースト美術館音楽室において、二人の着物をまとったご婦人が一段高くなった床に座り、丁寧にお茶の点前をされていた時のことである。
 「素晴らしいと思いました。」サウス・ハードレー在住のマリアン・J ・カッツさんはウィステリアハーストで開かれた茶会の感想をそう述べた。
 茶会はウィステリアハーストでの一ヶ月に及ぶアジア芸術文化祭を祝して、四月に二回、同美術館で行われた。
 日本から来られた茶道の先生はお二人……神奈川県の中戸川君子さんと千葉県の井口峰子さん。ウィステリアハーストでお客様にお茶のお点前をされた。
 茶碗はハンティントンにお住まいのリンダ・シスカさんが焼かれたもの。リンダさんは日本の陶芸技術を学ぶため、1975年に日本の陶工に師事された。
 二人のお茶の先生のほかに助手が数名と、楽人の高橋繁典さんが参加していた。高橋さんが演奏したのは「笙」と呼ばれるこの世のものとは思えない響きを出すハーモニカ楽器で、シンセサイザーに似た神秘的な音を出すフルートのような楽器である。
 しかし、全員の目は中戸川さんと井口さんの上に注がれていた。
 30分の茶会の間、完璧に装われた二人は、赤い傘で飾られた大きな赤い毛氈の上に集まったお客様のためにゆっくりと、そして整然と手順を踏んでお茶を点てていった。
 二人はお茶を点てるごとに布で茶碗をゆっくりとぬぐい、次に茶さじに少量のお茶を碗の中に置いた。そして、なみなみとお湯が入っている大きなセラミックの釜の中に長い木の柄杓を入れ、小さな碗に慎重に湯を注ぎ、木でできた茶筅でお茶を掻き混ぜた。
 なんとシンプルで、エレガント。
 次いで、数名の助手が、一心に見つめているお客様たちに点てたばかりのお茶を運ぶ。シスカさんもその内の一人だった。彼女は以前日本の唐津にいた時にたくさんのお茶会を見てきた。それでもこのウィステリアハーストのお茶会には深く感動していた。
 「実に見事だと思いました。」
 彼女はウィステリアハーストはこうした茶会には理想的な場所だと思う、と付け加えた。クラシックな建物と静かな雰囲気があるからだという。
 シスカさんは言った。「本当にぴったりの場所ね。」
 

 (The Republican紙 2008年6月4日付 本文)
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